110 / misawakatsutoshi
わたしには、捨てるわけには
いかない想い出がある。人に
話せば、色褪せる。実につま
らない郷愁である。わたしは
頼る人のいない、拠り所のな
い不安定な幼少期を過ごした
せいか、つまらない想い出の
風景は、親にも替わる意味を
持つような気がしてならない。
そしてまた、その想い出を共
有できる人間が、ひとりもい
ないのである。うまく説明す
ることもできないから、誰に
も聞いてもらったこともない。
この隙間風にどう対処したら
いいのかもわからないままで
いる。