アニメ『となりのトトロ』に登場する、塚森の主、トトロ。
そのトトロが喜んで住みそうな「懐かしい家」
全編が写真とデッサンで構成されて、それぞれに説明がついています。
初めてこの本に会ったのは、図書館です。
あまりにステキな本なので、また見ようと思ったのですが、なんせタイトルを忘れているため、探しようがなく、作者で検索しても出てきません。
ようやく、となり町の図書館で、一般には公開されず書架に収められていることを知り、急いでアマゾンで求めました。
おおむね昭和30年代の暮らしがイキイキと伝わります。
庶民の家とその暮らしぶり、生活レベルが高いと思われる家や庭、樹々のひとつひとつ、草花のひとつひとつにていねいに名前がしるしてあり、庭木にも時代によって流行のようなものがあることも、よくわかる仕組みになっています。
庭師が入った庭ではなく、草木好きの素人が、思いつくままに植えた風情で、ハサミは入っているものの、神経質な刈り込みではなく、成長の速い木が、他の木の邪魔をしない程度にと心配りされたくらいの庭が作者の好みのようです。
熱心に探せば、広い東京にも、増築も改築もせず、洋風の 、当時の文化住宅がそのまま残されているのを見つけることもできるのだと驚きました。
アルミサッシにしてなくて、木製の窓わく、波打ったむかしのガラス越しに小さな庭を見ることが、今でもできるのです。
ケヤキという、とても大きくなる木があります。
新緑のころは輝くみどり、枝ぶりは素直というか、おおらかで、葉の茂る夏になっても重苦しさを感じることはなく、台風の中にどよめき立つ姿も冬枯れに寒ざむとした姿をさらすのも、それぞれに印象的です。
ところがこれが庭にということになると、大変です。
大きすぎるからです。
植えたわけではなく、何処からかタネが飛んできて、芽を出し育った家の写真が載っています。
地権が際限もなく細分化されていく東京では、庭木としてのケヤキは、生きにくい木になってしまったと言えるでしょう。
また別のお宅は部屋のまわりをぐるりと廊下が回っていて、庭に面してはガラス戸です。
もちろん雨戸もあると思われます。
長い時が経てば、家というものは少しずつひずんでくるのはやむを得ないことで、この長い廊下の雨戸の開け閉めは、たぶんうんざりするほどの重労働だと想像します。
それでも、維持し続けておられることに敬意を表します。
デッサンは、まことにあたたかいもので、むかしの勉強部屋、四畳半で、隅に座り机があり、布の傘をかぶった電気スタンド、本箱、壁にはペナントと呼ばれたさんかくのきれが貼り付けられ、窓の外にはちょっと座れる手すりのある上がりかまちのようなところが付いています。
縁側には、わりとりっぱな沓脱ぎ石、縁の下には、カラの植木鉢や、捨て損なった古いガス台、自転車の空気入れと、スコップ、移植ゴテや、他には竹ボウキなどなどが雑然と詰め込まれている感じです。
さらに、むかしの台所は驚くほど狭く、ここで大家族をまかなったとは信じられないほどの、調理器具の少なさ。
応接セットなるものが流行り始めると、狭い部屋にムリに押し込んだ感じの客間が登場します。
わたしもたまにではありますが、古い家を持ちこたえている一角を見るとうれしくなります。
只々懐かしいのです。