old style tram / tsuda
もうずいぶん前のこと。
福岡市内には市内電車が走っていました。
どんたくには花電車として、一世を風靡した時代もありました。
電停は、道路の真ん中に細長くあって、当時それほどクルマが多くなかったせいか、立っていて恐怖感はありませんでした。
むしろわたしは電停に立つことが面白かった記憶があるくらい。
市内には大きな公園が幾つかあり、わたしが一番好きだった公園は、一番人気のなかった東公園。
日当たりが良くなかったのか、あまり明るいイメージはなく、植えられていた植物も地味で、なんという名前か、キャベツみたいなのが、植え込みにいっぱいあったのを憶えています。
昔のなんとかいう人の銅像はそのままに、公園は県庁に変わってしまいました。
特に反対運動もなかったのは、東公園がよくよく人気がなかったからでしょうか。
残念に思ったのは、わたしだけだったのでしょうか。
東公園に行くには電車です。東行きの電車は、ふつうに走り出します。
そしてたしか千鳥橋あたりで、敷石からふつうの軌道に入り、スピードが上がります。
音もガタゴトいってたのが、ゴーっという音に変わるのです。
当時馬出(まいだし)地区は、貧しい家が多かったのかもしれない、トタンの錆びた屋根が、電車の車体すれすれにあって、それはそれで印象深いものでした。わたしはあの電車が好きでした。
生まれ故郷の筥崎に近かったからだと思うのです。
故郷は母といたところ、そのすぐ後あの人は去って行った。
いつまでも卒業できないわたしは、一人で何度も行った。
あの電車に乗って。
誰かあの電車を憶えている人はいませんか。
あのじめじめした東公園を好きだった人はいませんか。