DATSUEBA / 奪衣婆(だつえば) / TANAKA Juuyoh (田中十洋)
忙しいのだろう。夕食の弁当が昼に届いたらしい。しょうがない、そんなこともあるんじゃないかと思ったりもするが、年寄りは、他人のミスを許さない。まったく。自分が迷惑をかけていることなど、ぜんぜん気づいていない。せっかち。言うことだけは言う。年をとって、人間が丸くなるなんて、ウソ。人の話は聞かない。そのうえ、うちの年寄りは、激しい自慢話をする。繰り返し同じ話。それもむかし住んでいた借家の話。借りた家の自慢話なんて、馬鹿じゃないの。北九州の小倉に、大きな家を借りていたそうな。大家は、亀井光という、福岡県知事を20年勤めた人で、離れには、その亀井さんの母親が住んでいたと。だからどうした。その話になると、言葉遣いが変わる。「亀井さんのお母さんをお預かりしておりましたからね」貸していたというなら、まだわかる。借りて威張るのは、変わっている。わたしはこの話で、耳にタコができて、耳鼻科に行くレベルである。ああは、なりたくない。さらりとした、気持ちのやさしい年寄りになりたい。でもみんな、そう思っていて、なれないでいる。