刑務所の中では、今でも「懲罰」が行われる。
規律違反を犯した受刑者に対して。
独房での閉居、作業賞預金没収、食事量減量など。
ただむかしと違うのは、突如一方的ではないこと。
「懲罰審議会」
知的障害者の場合の例
「〇〇さんを思いっきりぶん殴りました」
事実は逆で、ぶん殴られたのは、彼だった。
調書に 捺印までする。
自分にとっての、利益、不利益がまるで分かってない。
自白調書に強く依存している我が国の刑事司法のなかで、彼らがその特性ゆえに取調べや公判において、事実と反する供述へと強引に誘導される場面はないだろうか。
結果的に無実の罪で服役している知的障害者も、少なからず存在するのではなかろうか。
ろうあ者
1997年7月、岡山地方裁判所が、「窃盗罪」に問われていたろうあ者の裁判において公判停止を決定する。
当時62歳のこの男性は、やはり字の読み書きも手話もできなかった。
小学校にも通っておらず、成人前から浮浪者のような生活を送っていたらしい。
そんななか、ある鉄工所に侵入し600円を盗んだとして、逮捕・起訴される。
裁判が始まる。
検察官と手話通訳者とのやり取り。
「被告人に、黙秘権という言葉は通じますか」
「いいえ、通じません」
「それでは、『話しても話さなくてもいい』ということぐらいは、通じませんか」
「『ぐらい』どころではなく、手話が全く通じないのです」
これでは、裁判にならない。
生まれながらに聴覚障害を抱えていながら、教育にも福祉にも全く繋がっていなかった。
公判停止、控訴取り下げから3ヶ月後、一生を終えた。
福祉的支援が届いてさえいれば、被告人になることもなかったのではないか。
ろうあ者だけの「 組 」
「主文、被告人を懲役11年に処する」
男は27歳、ある指定暴力団の傘下に属しており、その組長であった。
最初の逮捕は、大阪市内のろうあ者を脅迫し、現金400万円を奪い取ったことによる。
「障害年金を担保に金を借りて、払え。払わないと殺す」
その後、ろうあ者ばかりを狙って、次から次。
ターゲットはすべてろうあ者。
しかしながらこの事件をマスコミは報道しなかった。
ろうあ者団体による抗議声明も出されていない。
理由は、男もまた、生まれながらの、ろうあ者だったからである。
男が率いる暴力団の構成員は、全員がろうあ者だった。
加害者、被害者ともにろうあ者である事件は、意外と多いとのこと。
「中国で治療を受ければ治る」など。
犯罪者は、「 ろうあ者の集い 」などに積極的に参加し、そうした中で標的を選んでいた。
「 ろうあ者同士は、信頼されやすい 」と供述している。
「ろうあ者団体の名簿から、金を持っていそうな人を探し出した」とも言っている。
同様の事件は増え続けており、塀の中に入るろうあ者も増え続けている。
ろうあ者が被告人となる事件の容態を見るところ、彼らもまた大きなハンディキャップを有している。
そのハンディをつくりだしているのは、実は聴者社会ではないか。
ある聾学校の校長の話。
「 可哀想なんですが、耳の不自由な人たちは、我々ほど知識を得る力がないんです。
我々の仕事は、耳の聞こえない子供たちをいかに健常者に近づけるか。
タイヘンですよ。我々は 」
教育者が平気で、差別的発言をする。
いちばん大きな問題を抱えているのは、この教育現場ではないか。
聴者がつくりだしたろう教育において、ろうあ者たちは、知識や常識を得る機会を、どんどん削ぎ落とされている。
いまの、ろう学校では手話を公式な言語として認めておらず、口語中心の教育がなされている。
耳が不自由で、正確な声や音を聞き取ることのできない子どもに、無理やり声を出させ、徹底的に発音教育を強いるということが行われている。
口や舌の形が間違っていれば、口の中に手を突っ込まれたりもする。
しかし、声を発している本人たちには、お手本の発声も、自分の声も聞こえないのである。
やってることが的外れとは思わないのか。