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洗 い 張 り 記 憶 ひ と つ の 母 の 逝 く

わたしは、母と5歳の時に別れた。
父親が、本気でオンナを作り、収入のない母は、追い出された格好だ。
着物の好きな人で、普段着も着物だった。
着るだけではなく、縫ってもいたようで、着物をほどいて洗い、平たい細長い板に貼りつける、洗い張りというものをしていたのを覚えている。
あとは、誕生日に茶巾寿司を作ってくれたこと。
料理は得意だったのだろう。

母が出て行ってから、わたしは地獄道を歩き出した。
若い継母は、何かというと暴力をふるった。
何時間も外に出されたり、妹にだけ、おやつを与えた。

成人してかなり経ってから、当時大阪にいた母に会った。
とても喜び、こんなことを言った。
「わたしには、夢がある。
貴女の近くに家を構えて、おでんや、ちらし寿司を作って、持たせたい。」
それを聞いたとき、わたしはかなり本気で腹がたった。
むろん顔には出さなかったが。
なにがおでんだ、ちらし寿司だ。
あんたのせい、ちがう、あんたたちのせいで、どんな思いをしながら、ここまでの年月を過ごしたか。
年をとって、寂しくなったからといって、近所に住みたいなどと、ふざけるなと思った。
わたしも、若かったのだろう。
今ならどうだろう。
怒ったりはしない。
世の中には、仕方のないことが多い。
そのときは、いいと思っても、それが最悪の選択だったことなんて、ざらにある。
腹は立たないけれど、近くに住むのは御免こうむりたい。
辛い生い立ちのおかげで、わたしは強くなった。
年老いて、大事なときになにもしてくれなかった母に、時間をとられるなんて、まっぴらだ。
冷たい人間に育ったものだ。
わたしは、ほんとうは自分が強くないことを、知っている。
強い人は、人生の始めの根幹のとき、人に愛され、すべてを投げ出すような安心感の中で育った人だ。

わたしは、過酷な生い立ちのおかげで、親に愛され、豊かに育った人を嗅ぎわける嗅覚を身につけた。
近寄らないようにしている。

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