もみむしろ あんじゅこいしや ほうやれほ
森鴎外 「 山椒大夫 」
むかしむかし「人さらい」という悪党がいたころ、母親とムスメ、ムスコが渡し舟を待っていたところ、言葉巧みに子ども二人がさらわれてしまいました。
お姉ちゃんは安寿、弟はズシオウ。
たいへんな苦労の果て、安寿は弟を逃がし、自分は入水して自死しました。
弟は、もともと家柄もアタマも良かった上に、運も味方したのでしょう。
官吏となって、母と姉を捜させる身分に出世しました。
「これだけさがしてもみつからないのは、自分に問題があるのでは」などと考えながら、歩いていると、とある百姓家から、弱々しい声の唄が聞こえてきました。
目の不自由な嫗が、ムシロの上に干されたモミにたかるスズメを追い払うために、ホウキを動かしながら唄っていたのです。
「 アンジュ恋しやほうやれほ、ズシオウ恋しやほうやれほ 」
身体中に電流が走ったようになった厨子王は、すぐさま母を抱きしめました。
高い空には、白鳥になった安寿が、ふたりを祝福するかのように舞い続けました。
森鴎外がなんでこんな童話のような作品を書いたのかわかりません。
ただこの話を本で読んだのは、のちのことで、最初は映画でした。
二日市シネマ。
小学校から、二列に並んで、歩いて映画館まで行きました。
封切りから何年も経っていたのだろうと思います。
ザ・ピーナッツの「 モスラ 」と二本立てでした。
男の子と女の子がセット、あたしは宮原清司くんと並びました。